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「途中までバスで行けるけど、あなたどこか悪い所は?体」
「ねーよ。ところであの見合いの話」
「それは…」
薫子は少し、言葉に詰まる。
彼のところに話が来たのは、薫子のせいだ。
例の、力の大きすぎた、神の末裔から出た鬼の末裔に、精神の均衡を崩し、力が制御不能になったときのために、神の末裔のなかでも力の大きい娘をあてがい、生涯離れることを禁じ、結婚させた。
それに倣い、以後、数十年に一度は現れた、特に力の強い鬼の末裔は、彼と同じこと…神の末裔の力の強い者を伴侶としている。
(自身の心を守るために)
説明だけして、溜め息をつくと、結論を言った。
「だから…おじいさまがどうしてもと言うのなら、私は受けざるをえない。今のところ、保留としか言いようがないわ。でもあなたがそのために犠牲になることはないから。一応、今では個人の自由。あなたの親族は反発を示すだろうし、あなたは次期当主だし、やめるのは簡単だと思うわ」
「ちょっと待て。何が犠牲?今ではって?」
「あなたが、犠牲。昔は…一番始めの、神栖家から鬼頭家に来た、その人のときだけ、強制。そのあとは自己判断だったけど、結局皆同じことをしたわ」
『何が』の部分を読み違えている。
「つまり嫌がるのを、それでも仕方なく『鬼』と生涯をともにするってことがか。神栖が言うんだろ、『犠牲』って?」
言った亮真をちらりと見て、薫子は、そこまで気を回さずともよいのだが、と思いつつ、肯定した。
正直、神栖が、鬼頭に入る者を『犠牲』と呼ぼうが知ったことではない。
どうせ会うことなどないのだから。
「で?俺が抜けたら、あとを埋めるやつがいるわけ?」
「知らないわ。今までは、次代にしても当代にしても、当主をこんなことには使わなかったのだけれど」
「当主にしか務まらないか。それとも昔の当主とそれ以外の血族の力って、五十歩百歩だったわけか?」
自分の精神を壊す危険のある者。
それを押さえることのできる者が現在、前例もなしに神栖家次期当主でしかないのは、過去では当主以外の者で充分だったということ。
だとすれば、薫子の力が大きすぎるか、当主以外の者がそれに並ぶだけの力を持っていたかだ。
「後者だと思う。それに今は、神栖の力を持つ者自体が少ないし」
「だな。で、自己判断てのは?」
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