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「神代の当主が結婚を勧めることはあまりないの。自分たちが適齢期までにその力を見極めて、自分一人ではとても支えきれないと判断したら、そのまま狂うのもいいし、正気でいたいなら神栖の手を借りるわ」
「狂う?」
「つまり心に棲むわけだから、それって」
あまり鬼だとか神だとか言いたくない。
「その本体は人のなかの狂気とか悪意とか…欲だとかいうもので、私たちの場合その増大の程度は計り知れない。もともと本人の意識なのか別のものの意識なのかすら判らない。その状態で行われるのは破壊と殺戮。ただそれだけ。神栖の手を借りるのは、そうなったときに自分の力の制御不能状態から自分以外の人たちを守ってもらうため。神栖の力というのは、ぶつかりあえばそれだけでも鬼頭の力を昇華させられるから」
「その狂うのもいいしって、無責任じゃないのか?」
「対策はしてあるから構わないわ。それにその他大勢を傷付けようと自分の好きなようにするのが私たちの本質よ。変えられはしないわ」
変えられない本質。
そこからきた、現在に至る約束事。
基樹たちは、その約束を果たしたくないために、こうして動いている。
そもそも、実行可能なのか、それすら判らないでいるというのに。
何もかもが。
「それよりもう行かないと」
ちら、と薫子は店内の時計に目を走らせ、亮真は自分の腕時計を見る。
「じいさん、いつ来るって知ってるのか?」
「知らないけれど、食事はしておいた方がいいし、もうしばらくは大丈夫」
たぶん、と心のなかで付け足しておいて、薫子は知らぬふりを決め込む。
なに、たいして害はないのだ。
嫌味を言われる程度で。
相手にもよるが。
「出ましょう」
そう言って腰をあげたところで、やあやあ、と聞き慣れた声がした。
「ようやく運命の出会いだなあ、お二人さん」
薫子と亮真は声の主を見て眉根を寄せた。
相手は、どちらにとっても面識のある男。
「霞…」
「やっぱり知らないのは本人たちだけですか」
亮真は面白くなさそうに九条霞を見た。
「なんで分家のお前と本家のこいつが顔見知りで、俺は存在さえも知らなかったんだ?」
「分家だからこそとも言えるな。加えて」
「霞さんが物好きだから」
明らかに自分の言いたかった答えと違うらしく、霞は不満げに薫子を見たが、そんなことにたじろぐ薫子ではない。
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