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薫子の言う神代家現当主である『おじいさま』は『おじいさま』ではなかった。
少なくとも外見は。
何も知らない亮真がその外見を見るのは、霞の車を降りてしばらくあとのこと。
その車は、舗装されていない林道を抜けた先の、舗装されていない駐車場に止めてある。
車を降りたあと、百段近い階段を上り、ようやく神代家の玄関に到着。
『おじいさま』を連れてくる、と言って、霞だけ、多少息を切らしながらも奥へと行った。
大きいわりに、この家には人がいないのだ。
そうして、中庭でしばらく暇潰しをしていた二人の前に現れたのは、年の頃十五、六の少年。
あとで聞いたところによれば、神代の者は、それぞれがそれぞれの年齢に達したとき、一旦成長…というより老化が止まり、肉体の限界期が近付くと、また少しずつ年を取っていくのだという。
だが、このときの亮真には判らない。
当然ながら混乱する亮真を霞に任せて、『おじいさま』がまず招いたのは薫子の方。
そして今、ふたりは奥の一室に向かい合って座っていた。
「…久し振りだな」
こうして間近に座るのも。
「…本当に…」
ぼそっと呟く薫子のこめかみに、青筋が浮かぶ幻覚。
つ、と一粒ぐらい汗が流れたかもしれない、『おじいさま』…神代竜樹は、じりっ、と座布団の上で身を動かす。
危害を加えられるはずはないのだが、それでも後退してしまうのだ。
しかし、次の呼び掛けは聞き捨てならなかった。
「おじいさま…」
「薫子、『おじいさま』はやめろと何度言った?」
身を乗り出して抗議する。
だが、そんなことに動じる薫子ではない。
「ほかに呼びようがありません。同じ年齢に見せてもです。と…同じだけ繰り返したことは覚えていますが」
回数までは、と冷たい物言い。
無論これが、神代家の者であるが故の外見なら、薫子とて文句は言えない。
しかし竜樹は自分で年齢を操作するのだ。
そして薫子が来るときだけ、この姿をとる。
加えて精神年齢も下がるから厄介、とは、薫子の意見だが、それが演技かどうかまでは誰も知らない。
ちなみに、薫子がいないときは、三十五、六歳といったところ。
そしてそれは、三十年前と同じ姿。
「それより祖父母が来たはずですが」
「察しがいいな、相変わらず」
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