鬼神の血族

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       ***    薫子の言う神代家現当主である『おじいさま』は『おじいさま』ではなかった。 少なくとも外見は。 何も知らない亮真がその外見を見るのは、霞の車を降りてしばらくあとのこと。 その車は、舗装されていない林道を抜けた先の、舗装されていない駐車場に止めてある。 車を降りたあと、百段近い階段を上り、ようやく神代家の玄関に到着。 『おじいさま』を連れてくる、と言って、霞だけ、多少息を切らしながらも奥へと行った。 大きいわりに、この家には人がいないのだ。 そうして、中庭でしばらく暇潰しをしていた二人の前に現れたのは、年の頃十五、六の少年。 あとで聞いたところによれば、神代の者は、それぞれがそれぞれの年齢に達したとき、一旦成長…というより老化が止まり、肉体の限界期が近付くと、また少しずつ年を取っていくのだという。 だが、このときの亮真には判らない。 当然ながら混乱する亮真を霞に任せて、『おじいさま』がまず招いたのは薫子の方。 そして今、ふたりは奥の一室に向かい合って座っていた。 「…久し振りだな」 こうして間近に座るのも。 「…本当に…」 ぼそっと呟く薫子のこめかみに、青筋が浮かぶ幻覚。 つ、と一粒ぐらい汗が流れたかもしれない、『おじいさま』…神代竜樹(たつき)は、じりっ、と座布団の上で身を動かす。 危害を加えられるはずはないのだが、それでも後退してしまうのだ。 しかし、次の呼び掛けは聞き捨てならなかった。 「おじいさま…」 「薫子、『おじいさま』はやめろと何度言った?」 身を乗り出して抗議する。 だが、そんなことに動じる薫子ではない。 「ほかに呼びようがありません。同じ年齢に見せてもです。と…同じだけ繰り返したことは覚えていますが」 回数までは、と冷たい物言い。 無論これが、神代家の者であるが故の外見なら、薫子とて文句は言えない。 しかし竜樹は自分で年齢を操作するのだ。 そして薫子が来るときだけ、この姿をとる。 加えて精神年齢も下がるから厄介、とは、薫子の意見だが、それが演技かどうかまでは誰も知らない。 ちなみに、薫子がいないときは、三十五、六歳といったところ。 そしてそれは、三十年前と同じ姿。 「それより祖父母が来たはずですが」 「察しがいいな、相変わらず」
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