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二月の第二日曜日。
週休二日制と祝日のため、三連休の二日目であるこの日、亮真は、一ヵ月ぶりに帰った自分の家の自室で、珍しく勉強をしていた。
そして、ある事情でそれをやめた、20分後。
「亮真、いらっしゃい」
母が澄ましてそう言った時点で、亮真にはそれが自分に悪いものをもたらすものだと判っていた。
だから、二階の自室に常に待機させてある靴を急いで取り上げたのだが、その途端に扉が開いた。
「とーまーれ!」
二十代と思われる女性が命じた、その瞬間から、亮真はその場に金縛り。
「お袋っ、やめろっつってんだろおっ!?」
「だって、もうクセになっちゃったんだもの」
おーっほっほ、などと余裕ぶちかましの笑い声。
17歳で妊娠して結婚して子供を産んだ(順序どおりだ)32歳の母は、若さに任せて素晴らしく明るい人だ。
加えて、ある種の能力の強さにより決まる、彼の家、神栖家歴代の当主のなかでも、トップクラスの能力保持者。
(こんな危険な女にどうして力やったりするんだよっっ!!)
事あるごとに亮真はそう思う。
彼女の無鉄砲な能力行使の、一番の被害者は、息子の亮真なのだ。
亮真もなかなかの使い手ではあるのだが、到底彼女には及ばない。
「大体、人が呼んだら逃げずにまず来るものでしょ」
なんて常識知らずな子なの、と言うが、自分にない常識を子に押し付けるのはどうかと思うのだ…。
その彼女の後ろから、一人の老人が現れて、言った。
「そうだな、人がせっかくいい話を持って来てやったのに」
先ほど、連れ合いらしい、それにしては上品な老婦人と、一緒にこの家に入ったのを見た。
珍しく向かっていた机とあっさり離れたのは、そのせいだ。
「ジジイの持ってきた話が『いい話』だったためしがあるかっ」
「心外だ」
もっともらしくこめかみに指を当てて、悩む振りをして見せる老人。
彼の本性を知らない母は、唇の端をひきつらせて微笑んだ。
「こおの子ったら口悪くなっちゃってっ」
自分の教育外のこと、と割り切りつつそれでも怒るこの身勝手さ。
そして彼女は、仕置きは間を置かずやるものと知っていた。
「いーっっっ!やばっ、ちょっ、やめっ、マジでやばっ」
亮真は悲鳴をあげる。
母、民子が、彼の腕をとんでもない方向に曲げつつあるのだ。
手を触れずに。
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