端緒

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       ***    すぐ横に、機能的なキッチン及びダイニングが見える、畳のある部屋。 目の前の、薄手の服の上に毛布を被った少年亮真は、薫子(かおるこ)の祖父とのここ数年の関係を話してくれた。 聞いた限りでは、少年は神栖家と、彼女の家である鬼頭家との因果関係を知らないらしい。 「それで、ここまで飛ばされて、何も思わないの?」 一応、自分と同じ年だということが判ったので、薫子は、敬語をやめた。 「何もって?」 「おじいさまが、ここまで、飛ばしたのだもの。裏があるはずだわ、必ず」 理由、ではなく、裏、と言ってしまう辺りに、薫子の祖父の日頃の行いが見える。 「確かに…」 亮真も、ひどい目に遭わされ続けなので、納得。 「でもそれでどう…」 言いながら気付いたのか、眉間にしわを寄せ始めた亮真を見て、薫子は仕方なく、彼にとっては肯定であろう自分の考えを口にする。 「そうと決まれば、とおじいさまは言ったのでしょう?」 「そう…だ…」 「あなたが相手に会うことを承知したのなら、答えはひとつ、だと思うわ」 「ってことは、見合いの相手は…」 「私」 薫子には、多少、思い当たることがある。 今朝の祖父の言葉に、このことを匂わせるものがあった。 そしてこんな話を、今、言い出されることに関しても、心当たりがある。 言っていけばいいのに、と一瞬思って、溜め息をついた。 言うはずがない、自分を驚かせたかったのに違いないのだから。 「おい…そのため息は失礼じゃねーの?」 「え?」 反射的に答えて、すぐに気付く。 「あ。ごめんなさい。おじいさまたちのこと」 「ならいーけど。それにしてもあのジジイ、やることが急なんだよ。人には予定っつーもんがあるってことを少しは考えろよなーっ、くそっ」 「予定…今日?」 「今日」 「何時から?」 「昼過ぎ」 「どこ?」 眉根を寄せて、薫子は腰を浮かす。 こんなところにいていいはずがない。 その様子を見て、亮真は手を振る。 「あー、平気。寝る予定だったから」 薫子はほっとして腰を下ろす。 「お前はないのかよ」 「ないわ」 寂しい休日だなーっ、と言いかけて、亮真は慌てて口をつぐんだ。 人のことを言えた立場ではない。 「そーいえばここ、どこ?」 ようやく亮真は思い付く。 取り敢えず、見合いの相手とやらには会ったのだから、帰ってもいいはずだ。
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