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すぐ横に、機能的なキッチン及びダイニングが見える、畳のある部屋。
目の前の、薄手の服の上に毛布を被った少年亮真は、薫子の祖父とのここ数年の関係を話してくれた。
聞いた限りでは、少年は神栖家と、彼女の家である鬼頭家との因果関係を知らないらしい。
「それで、ここまで飛ばされて、何も思わないの?」
一応、自分と同じ年だということが判ったので、薫子は、敬語をやめた。
「何もって?」
「おじいさまが、ここまで、飛ばしたのだもの。裏があるはずだわ、必ず」
理由、ではなく、裏、と言ってしまう辺りに、薫子の祖父の日頃の行いが見える。
「確かに…」
亮真も、ひどい目に遭わされ続けなので、納得。
「でもそれでどう…」
言いながら気付いたのか、眉間にしわを寄せ始めた亮真を見て、薫子は仕方なく、彼にとっては肯定であろう自分の考えを口にする。
「そうと決まれば、とおじいさまは言ったのでしょう?」
「そう…だ…」
「あなたが相手に会うことを承知したのなら、答えはひとつ、だと思うわ」
「ってことは、見合いの相手は…」
「私」
薫子には、多少、思い当たることがある。
今朝の祖父の言葉に、このことを匂わせるものがあった。
そしてこんな話を、今、言い出されることに関しても、心当たりがある。
言っていけばいいのに、と一瞬思って、溜め息をついた。
言うはずがない、自分を驚かせたかったのに違いないのだから。
「おい…そのため息は失礼じゃねーの?」
「え?」
反射的に答えて、すぐに気付く。
「あ。ごめんなさい。おじいさまたちのこと」
「ならいーけど。それにしてもあのジジイ、やることが急なんだよ。人には予定っつーもんがあるってことを少しは考えろよなーっ、くそっ」
「予定…今日?」
「今日」
「何時から?」
「昼過ぎ」
「どこ?」
眉根を寄せて、薫子は腰を浮かす。
こんなところにいていいはずがない。
その様子を見て、亮真は手を振る。
「あー、平気。寝る予定だったから」
薫子はほっとして腰を下ろす。
「お前はないのかよ」
「ないわ」
寂しい休日だなーっ、と言いかけて、亮真は慌てて口をつぐんだ。
人のことを言えた立場ではない。
「そーいえばここ、どこ?」
ようやく亮真は思い付く。
取り敢えず、見合いの相手とやらには会ったのだから、帰ってもいいはずだ。
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