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思いがけず、優しい雰囲気が漂う。
(いい!すごくいい!)
すこぶる付きの美女を、しかもその笑顔を観賞し、感激する亮真の耳に届いたのは、あまりに無情な一言。
「おにいさま…」
言ったのは、薫子。
この、化粧なしでもまったく違和感のない美女ぶりを見せる人間が。
「おとこおおっっ!?」
叫んだ亮真の精神的打撃は察するに余りある。
薫子の兄、基樹が言う。
「気にするな、便宜上この格好でいるだけだ」
この姿のどこをどういじれば男に見えるのか、ぜひとも教えてほしいと亮真は思う。
しかも、女性にしては低いが、心地よい声までもが、違和感どころか妙に女らしく思わせる。
一方、薫子の方は、呆れ顔で兄を見る。
別に兄の女装姿など見慣れているが、そんなことより問題なのは、この状況を兄が承知しているらしいことだ。
「皆で共謀して、何を遊んでいるんです」
遊んでいい事柄だとは思えない。
基樹は、心外、という顔をして、答えた。
「遊んでいるつもりはないが…まあ、じいさまはそうだろうな」
「それで、何をしに?」
「伝言をと言われてきた」
「神代に来いと?」
「ああ。亮真を連れてだ」
不意に名を出され、なんでコレで女じゃないんだっ、と頭を抱えていた亮真は、顔をあげる。
「なんで俺?」
どこに連れてくって?と続けて問う亮真を一旦見て、薫子と基樹は顔を見合わせる。
状況説明、というものが彼には必要だ。
「行く途中で薫子から聞け。少し時間がかかる」
「おにいさまは?」
「俺は留守を預かる必要がある」
必要、とはまた正直に言う。
「今度は何をする気です?」
眉根を寄せる薫子に、再び優しい笑顔を向ける基樹。
絶対に何か企んでいる。
しかしそうと気付いても、薫子にはどうにもできない。
言われた通りにしなければならないのだ、今は。
薫子を救うために、彼らは動いているのだから。
この程度は、安心させるためにも、必要なのだ。
彼らの心を、無視することなんてできない。
薫子はすぐに、諦めの吐息をつくほかなかった。
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