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二人は…薫子と亮真は、山に囲まれた町に着いていた。
山のなか、というから、どんな田舎かと思って来たのだが、亮真は少々面食らっていた。
実際には田舎に行ったことはないから、かなり偏見の混じった想像ではあったが、それを差し引いても、この町は一風変わっていた。
見れば、町というより街なのだ。
それほど高いビルがあるわけでもなく、人でごみごみしているわけでもない。
なぜこうなのか、もとは判然としないのだが、賑やかで活気に溢れていた。
その町の駅に、二人は50分ほど前に着き、そのまま、遅い昼食を摂るために、駅の回転展望レストランなるものに入っていた。
「で、このどこにそのじいさんの家があるって?」
食事を終えた亮真が、話の続きを促す。
一応、遡れば同じ血、という、みっつの家のことを聞き、薫子がそのうちのひとつ、鬼頭家の次期当主であることと、先ほど会った薫子の兄、基樹が神代家の次期当主であることは聞いた。
『神栖と同じで、鬼頭も神代も一番能力の高い者、大きい者が継ぐの。養子に入って。おじいさまは私の実の祖父だけれど、親が跡を継がなかったから、戸籍上私はおじいさまの子ということになるわ。ちなみに神代の現当主は、そのおじいさまの弟』
『二代続けて兄弟か』
『最近では私たちの家系に近い人が多いらしいわ。鬼頭も神代も。あなたのところは確か直系だけど。血の濃さがものをいうようね』
普段ならいらつくほど、亮真の知識は少なかった。
それをさせなかったのは、説明していたのが薫子だからだ。
「丘のなか」
「あ?」
しまった、考えている間に聞くべきことを言い終わったのか?
一瞬思ったが、薫子が言ったのはその一言だけだった。
代わりに雄弁に語っていたのは彼女の箸。
「あの、丘のなか」
ちょうど真横に、その丘は見えていた。
それを箸で示していたのだが、肝心の亮真は気付いていなかった。
代わりに、薫子の視線を追っていた。
「で?まさか丘の上のあの台地にあるとか」
「言わない。せいぜいその中腹だと思う。少し歩くことになるわ」
箸を置いて、冷水の入ったコップに手を伸ばす。
改めてその容姿に目をやって、美少女のラベルを張るのは亮真。
少々冷めてはいるが、性格はそう悪くなさそうだ。
頭の回転も速い。
母の評価は正しい。
口を開かなければ、かわいい。
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