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端緒
二月。
庭の隅には、雪が残っている。
池にも氷が張って、まだ冬も寒い日であると、教える。
その庭を横に、少女は廊下の手入れをしていた。
色白い肌と、黒い、首のなかほど辺りで切られた真っ直ぐな髪が、印象的だ。
その少女の、髪同様、真っ黒な瞳は、今はそこにない祖父の顔を見ている。
少女の親友が、非常にシンプルに、ただバカでかい、のだと決め付けた二階建てのこの日本家屋は、少女の祖父母の家だ。
常日頃から清潔には努めていたが、今日は特に、客が来るから大掃除を、と言い付けられて、少女は律義に窓を全開にして風を通している。
だがそれも終わり、窓を閉めようとした、そのとき。
「う…わあああっっっ!!」
上方から、少年の絶叫。
待つこともなく、その少年は姿を現した…空から落ちてきて。
そうして、ちょうど池の中央、氷の上に着地を決めると、再び絶叫。
「あンのくそジジイっ!!」
それと同時に、形にならない声があった。
少女の内。
(あ…そこは…)
少女には、口を開くのがやっとだった。
ピシッ
「え?」
そして少年が気付いた時には、遅かった。
ぱりっと氷は割れて、少年は今度は、池のなかに落ちた。
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