第9章 夫婦の証

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「生前に陛下の為したことは、どれもろくなものではなかった。したが、一つだけ感謝していることがある」  耳の後ろで、神がささやく。 「八年前、そなたと引き合わせてくだされたことだ」 「もったいないお言葉」  それだけしか答えられなかった。  マツバ姫が、静かに身を離す。触れられていた肩の温もりが、冷気の中へ急速に散っていく。  前庭にいた中年男の姿は、いつの間にか消え去っていた。 「しかし、そなたにはそなたの未来がある。婿に取られて泣く娘はおらぬと申しておったが、もしも想い合う者が現れたら、遠慮なく妻として迎えるがよい。正室の座は譲ってやれぬが、わたしはそなたの幸いを願っている」 「私のことより、ご自身はいかがなのです」 「わたしか」  「マツバさまの幸いこそ、私の願いです」 「さて……幸いと災いは紙一重」  はぐらかすように言って、姫はまた欄干にもたれかかり、遠い空を見る。久しぶりに、広く晴れわたった青天であった。国土を取り巻く山々の、雪を頂いた峰がその空に映える。 「会いたくもあり、会いたくもない」 「それは、どういう意味です?」 「そなたは、知らずともよいことだ」     
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