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不得要領といった面持ちの夫を横目に、マツバ姫はからからと笑う。何が可笑しいのかわからなかったが、ともあれ久々の明るい表情に、胸の空くような思いがした。
笑いを収めると、姫は欄干から手を離して背筋を伸ばし、東南に視線を向ける。その先に彼女が何を見据えているか、アモイにもすぐに察しがついた。
彼もまた、姫と共に、同じ方角を向いて立つ。
「次に会うのは、戦場となろうな」
二人の見つめる先の青空は、屹立する国境の山脈の上に、冷たく冴えわたっていた。
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