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おっとりとして、悪くすれば、鈍そうでもある。しかし、何と言おうか。怜悧、才気煥発、そういった鋭い知性とはまた別の、温かな光のような聡明さが、世間話に応じる言葉の端々からにじんでくる。義弟と並んで微笑む姿には邪気がなく、存外に似合いの二人であった。
「ハルどの。わたしも、ウララどのを気に入りました」
その人は答えた。すると義弟はにっこりと笑ったまま、さらに尋ねた。
「わたしのことは、すきになりましたか」
「何と?」
「ねえさまは、まえに、わたしをきらいだといいました」
「さようなこと、申した覚えは」
言い差して、その人は口をつぐむ。あの幼い日に、真っ赤に頬を腫らした少年の泣き顔が、目の前の陰りのない笑顔と重なった。
「仮に申したとしても、他愛ない戯れ言。まことに嫌いだなどと、思うたことはありませぬ」
「なあんだ。よかった」
そう言って無邪気に喜ぶ義弟に、彼女は言葉を詰まらせる。
「あら、いけない、忘れておりました。姉上さま、よろしければ、こちらを」
異母姉弟の間にふと訪れた沈黙を、可憐な娘が遠慮なく破った。
「お近づきの印に……わたくしのいちばん好きなお花ですの」
娘は薄絹で包んだ大きな花束を抱え、これから義姉となる相手の前へ進み出る。
その人は微笑みながら頷いて、ゆっくりと手を差し出した――が、まさしく花に触れようという間際に、一瞬の躊躇がある。
娘は不思議そうに、その人の顔をうかがい見た。
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