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(城主の任を降りて以降のその人に関しては、ほとんど歴史的記録が残っていない。
だがその穴を埋めるかのように、おびただしい伝承が生み出された。それらの多くは根拠が弱い、一貫性がない、信用に足りぬものだと歴史家は言うが、こうした批判は的を外している。
想像であれ妄想であれ、人々が語り継ぎたいと思うものが、確かに存在したという真実。それらはたとえあらゆる歴史書に見捨てられても、物語としてたくましく生き残っていく。
『紅鷹君伝』という物語もまた、歴史が黙殺しようとした真実を誰かに伝えようとして生まれたのだろう。読者たちはその中に、著者と同じ夢を見る。描かれた人物が実像を正確に写しているか否かなど、問題ではない。
史実であろうとなかろうと、彼女に魅入られた者たちには聞こえるのだ。はるか上空に翼を広げた大鳥の、雄々しい羽ばたきの音が。)
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