シャッフル・ファミリー

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シャッフル・ファミリー

 書類に添えられた地図を片手に、知らない駅で降りて道路脇の歩道を歩く。春先の穏やかな日差しが優しく僕を照らしていた。辺りは閑静な住宅街で、まわりの家からはささやかな拍手や小さな歓声が聞こえてくる。  三島という表札を掲げた家は、新築の建売住宅が並ぶ道沿いの一角にあった。 「ここか」  表札の下に貼られた八桁のナンバーと書類の番号を確認して、僕はインターホンに伸ばしかけた手を止めた。これを押すのはおかしい、なぜならこの家はこれから僕の自宅となる場所なのだ。  大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐きだした。真っ青な空を見上げて呼吸を整えてから、玄関のノブに手をかける。 「ただいま」  そう告げて、今日初めてやってきた家にあがりこんだ。 「おお、おかえり」 「おかえりなさい」 「おかえり、お兄ちゃん!」  見知らぬ家族が、僕の帰りを笑顔で出迎えてくれる。  良かった、優しそうな人たちだ。僕は少しだけ心の中の緊張が解け、足早に靴を脱いで家族の待つリビングへと向かった。
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