ニヒルな料理人

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* 「本当は、もう少し暗いところで見せたかったんだけどな」 時間は丁度、真夜中の12時。 場所は私の部屋。 シンデレラはボロが出る前に、王子様の前から立ち去ることが出来た。 私の場合は、どうやら魔法が解けると同時に、ボロを出さなくてはならないようだ。 室内の照明を最大限に暗くしても、きっと月の光の方が暗く見えるだろう。そうたかをくくって明かりを消し、遮光カーテンを開けてレースカーテンだけにした。 その考えは、どうやら甘かったようだ。 今夜は満月。 レースカーテンの隙間を通してさし込む月の光が、露になった私の上半身を、割とくっきり映し出している。 こうする前、遮光カーテンを引いて電気を消してしまおうかとも考えた。 けど、そうすると、相手にさらけ出して見せたいものまでもが見えなくなってしまうから、止めた。 「暗かろうと明るかろうと、そんなもんは別にどうでも良い」 ベッドに腰かけた、顔の彫りが深く目つきの鋭い男が、相変わらずの愛想の無さでそう呟き、目の前に立っている私の左上肢を無言で見つめる。 「驚いたでしょ?中はこんな感じになってるの」 もう二度と、診察以外で男の人に、自分の裸体をさらすことはしないと心に誓っていた。 「別に驚かねぇよ。火傷の痕なんだろ、それ」 「うん。震災の時に、落ちてきたやかんのお湯がかかって火傷して。何度も手術して、何とかここまでにはなったんだけどね。なんかお化けみたいで醜いでしょ、私の左側」 私の身体に無惨に残る火傷の痕を見るなり、詐欺だとひき気味に言った元カレの言葉が、頭を過る。 あんなに蔑まされて嫌な想いまでしたのに。 「醜くねぇよ」 素っ気ない言葉。 その言葉は、もうずっと、目の前にいる彼から欲しかった言葉だ。
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