29人が本棚に入れています
本棚に追加
*
私の名前は、冴島美帆。年齢は24歳。
JM商事株式会社の受付嬢。
周囲の人間は、私のことを才色兼備だの高嶺の華だのと謳う。
「冴島さん。今度の週末、良かったら飲みに行かない?」
「ごめんなさい。予定が入ってますから」
「美帆ちゃん、今晩空いてる?飲みに行こうよ。ワインの美味しい店がこの近くにあるんだ」
「それは残念ですね。今日は専務に接待の付き添いを頼まれているんです」
異性からのお誘いを、笑顔でそつなく断るのにも慣れた。
それに最近では、松永専務のお手つきだという噂が流れているせいもあってか、こんな風に世間話の1つとして軽く誘ってくることがあったとしても、しつこく誘うような言葉は無くなった。
ーー本当は違うけど。
「俺と関わりがあることにしておけば、言い寄ってくる輩はいなくなる。そういうことにしておけ」
以前、取引先の男性に、ストーカーまがいにつきまとわれたことがあった。
困り果てた挙げ句、辞表を出そうか悩んでいた時、会社の御曹司である松永専務からそう告げられた。
「お前には、会社の華としてあそこに座っていてもらいたい。お前が受付で花のように笑うだけで、取引先の連中もすっかりほだされる。それに、会社に入った時に目の保養がなくなるのはつまらん」
淡々と告げる専務のストレートな言葉に、私は思わず笑った。
その言葉も、十分にセクハラだ。
でも、悪い気はしなかった。
私と専務との間に、男女の関係は1度もない。
同じホテルから出てきたところを、社員に見られたという噂が広まったけれど、それも専務が全て仕組んだデタラメだ。
専務に睨まれたら仕事が出来なくなることは、この業界に関わりのある人間なら、誰もが知っている。
だから、専務の女扱いされている今、本気で私を口説こうとする人間はいない。
こうして、私は手に入らない高嶺の華として、安全に今日も受付嬢としての仕事をこなしている訳だ。
最初のコメントを投稿しよう!