ニヒルな料理人

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* 私の名前は、冴島美帆。年齢は24歳。 JM商事株式会社の受付嬢。 周囲の人間は、私のことを才色兼備だの高嶺の華だのと謳う。 「冴島さん。今度の週末、良かったら飲みに行かない?」 「ごめんなさい。予定が入ってますから」 「美帆ちゃん、今晩空いてる?飲みに行こうよ。ワインの美味しい店がこの近くにあるんだ」 「それは残念ですね。今日は専務に接待の付き添いを頼まれているんです」 異性からのお誘いを、笑顔でそつなく断るのにも慣れた。 それに最近では、松永専務のお手つきだという噂が流れているせいもあってか、こんな風に世間話の1つとして軽く誘ってくることがあったとしても、しつこく誘うような言葉は無くなった。 ーー本当は違うけど。 「俺と関わりがあることにしておけば、言い寄ってくる輩はいなくなる。そういうことにしておけ」 以前、取引先の男性に、ストーカーまがいにつきまとわれたことがあった。 困り果てた挙げ句、辞表を出そうか悩んでいた時、会社の御曹司である松永専務からそう告げられた。 「お前には、会社の華としてあそこに座っていてもらいたい。お前が受付で花のように笑うだけで、取引先の連中もすっかりほだされる。それに、会社に入った時に目の保養がなくなるのはつまらん」 淡々と告げる専務のストレートな言葉に、私は思わず笑った。 その言葉も、十分にセクハラだ。 でも、悪い気はしなかった。 私と専務との間に、男女の関係は1度もない。 同じホテルから出てきたところを、社員に見られたという噂が広まったけれど、それも専務が全て仕組んだデタラメだ。 専務に睨まれたら仕事が出来なくなることは、この業界に関わりのある人間なら、誰もが知っている。 だから、専務の女扱いされている今、本気で私を口説こうとする人間はいない。 こうして、私は手に入らない高嶺の華として、安全に今日も受付嬢としての仕事をこなしている訳だ。
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