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「俺は全く気にならないし、良いんだけどな。本当に俺なんかで良いのか?お前から見れば、俺はただのオッサンだぞ?」
露になった左側の鎖骨部分に、ひんやりとした彼の手の感触が伝わってくる。
「一生分の勇気を振り絞って見せたんですから、責任、とって下さい」
責任ねと小さく溜息をついて呟きながら、私を自分の元へと引き寄せると、彼はそのまま再びベッドへと座り込んだ。
彼の膝の上に、座る。
「全く……ここで一生分の勇気、使うなよ」
薄暗闇の中で、初めて間近で見る彼の顔は、これまで見たことがないくらい、くしゃくしゃな笑顔だった。
いつもの仏頂面からは想像もつかないくらい、優しい笑顔だ。
「美帆。白状してやるよ。初めて会った時から、俺もお前のことが好きだった。つい、色々と意地悪なことも言ったけどな」
その瞬間、喉がひりついて。
でも、心から安心出来て。
やっぱり、この人のことが好きだと確信した。
サンカフェで出会った愛想のないシェフ。初めて見た時からずっと、何故か目が離せなかった。
会ってとりとめのない会話を交わす度に、不思議と、この人にもっと関わりたいと思った。
「忍さん……好き」
頬を彼の胸元にくっつけると、煙草の香りが鼻を掠める。
これから唇を重ね合わせたら、きっと、苦さと甘さで脳の奥がしびれる、そんな官能的な味がするに違いない。
ーーFinーー
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