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浮ついてたんだ。
人生には、とことんうまくいかないときがある。
酒癖の悪い親父の名言。それを口にするのは決まって、パチンコで負けたあとだ。
何を腐ったことを、と思っていた。だが、今になって分かる。というのも、俺は腐っているからだ。
「日本酒を」
就職活動に失敗。内定は零件。両親は筋金入りの呑気なのか、笑っていたが、笑えるか。
優秀な姉貴は、文系大学院を首席で卒業し、奨学金は返還免除。大手コンサルティング会社に就職。そんな姉貴と比較されながら実家で過ごす屈辱から逃げたくて、今年の春は、下宿先で過ごすことにした。
明日は日曜。だからと言って、気分が晴れるわけもなく。
ああ、今日は特別、最低な日だ。
「飲み方は?」
「熱燗で」
預金を数万ほど下ろし、下宿のアパートからほど近い繁華街でひとり酒。
飲み屋の大将にくだをまく、なんていうドラマの一場面をするわけではない。コミュ障の現代若者らしく、酒と会話をするのだ。いや、この言い方だと、むしろ古くさいか。
この店は、とにかく小鉢と一品料理の種類が多く、ひとり酒にはこれ以上ない至高の店だ。サイズが小さいせいか値段も手ごろ。酔いが回れば金銭感覚が狂って、追加注文を次々にしてしまう。上手い商売手口だが、大いに満足だ、とカウンターに並べられたとっくりと皿の数が証言していた。
――と、ここまでが、記憶のあるところ。この日俺は、成人の日の初酒以来、酒で記憶が飛んでしまった。
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