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臀部にアスファルトのざらざらとした質感が。俺は、裏通りの壁にもたれかかって寝ていたらしい。
時刻は夜中ということしか、分からない。
時計を見るという文化人的発想が欠如した俺は、周りをきょろきょろと見まわす。
「おいっ、ぼくっ!」
呼ばれて見上げた。髪の長い歪んだ女の人が葡萄の香りの息を吐いていた。
鼻の下が伸びているぞ、と言われた。
そして、差し伸べられた細い腕に、自力で立てない俺は縋り付いた。すると華奢な体躯に似合わない力で引き寄せられた。
背は高めで、俺との身長差はさほどない。自然に肩を貸してもらうような格好になった俺は、近くのバーに担ぎ込まれた。
そこのソファーで俺は、力尽きた。
「ぼく、起きた?」
また上から声をかけられた。目を開けると、そこに彼女はいた。あのとき鼻の下が伸びているぞ、と言われた理由が分かった。そして思いきり目が冴えた。赤い縁の眼鏡のレンズは、青い光を反射している。それが彼女の美貌に知性的な印象を添えていた。
ぴっちりと整ったスーツから伸びるしなやかな手足。女と主張する胸の膨らみ。彼女は文字通り、目が覚めるほどの美人だった。
「ここは……」
間接照明の灯りに照らされた、落ち着いたバー。もう四時よ、と彼女が言ったところで、やっとBGMのジャズが耳に入る。
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