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「あんなになるまで飲んでいたなんて、若いのに」
俺のことを若いと言うということは、年上だ。
葡萄の香りの電子タバコを吸う、しなやかな手つきは、いかにも経験豊富な年上のお姉さまといった具合で、エレガントだ。
「なんで、ああなってたのよっ」
はぐらかそうにも上手い嘘は付けそうにない。彼女の聡明な瞳が、俺から嘘をつく能力を奪い取っていた。結局、その場で全て話してしまった。
「すみません、愚痴を聴いてもらって」
「いいってのよ。こういうのは、行きずりの女に話すのが一番いいのよ」
彼女は笑った。少し気分が軽くなった。包容力を感じさせる女神のような笑み。だが、どこか憂いを感じさせる。それが実に色気があっていい。
「あなた、就職浪人決定というわけねえ」
「ええ、まあ……」
「じゃあ、うちに来てみる?」
彼女は、神楽坂美祢と名乗った。――思えばなんで俺は、この話に乗ってしまったのか。
「まあまあ、お姉さまのお遊びに付き合うと思えば。お小遣いも考えているし」
――答えは簡単だ。俺は、浮ついていたんだ。
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