タイルノキモチ

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分かっています。 それが正しい道だということを。 僕は……。 このご家族を愛しています。 だから、少しだけ残念だったのです。 これからの彼らを見続けられなくなってしまうということが。 我が儘を言って、ごめんなさい……。 ちゃんと、その日が来たら、笑顔でお別れを言います。 だから、もう少しゆっくりと話を進めてくださると、ありがたいです……。 その話を聞かされてから半年ほど経った頃でした。 その日の数日前からお父さんもお母さんも大和さんも突然姿を見せなくなり、どうしたのだろうと不思議に思い始めた矢先でした。 バキバキとうるさい音を立ててお風呂場の壁が壊されていく。 その時初めて見たのです。 青い空を。 もちろん浴室にも窓はついていました。 しかし何分換気用でしたので、小さく申し訳程度についておりましたからその空の青さと高さにはただただ感嘆の声を上げるばかりでした。 ああ、この空を眺めながら僕はこの命が尽きるのかと思うと、涙が止まりませんでした。 あ、涙なんて流れませんね。 タイルなのですから。 でも、最後にもう一度、皆さんとゆっくりお風呂タイムを楽しみたかったと……その思いばかりが心を満たしておりました。
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