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遠目にはオフィスビルに見えたけど、近づいてみると、間口は広く、ひとの出入りと雰囲気から、病院だというのがわかった。
空は晴れていた気がするのに(見ているものは時々色彩をなくしたりするので定かじゃない)、うすく翳りはじめていた。
中に入るのは気がすすまないけど、行かなくてはいけない、という衝動があった。
広い受付カウンターがあり、その前にたくさんのソファがあって、大勢のひとたちがそこに座っている。
その横に吹き抜けのエスカレーターがあって、そこを上がった。
どこもかしこも明るくて清潔なのに、翳りはだんだんと深まっていく。
2階までエスカレーターで上がって、その先はエレベーターに乗り換えるらしく、エレベーターホールに向かう。
ところどころに、変な人がいることに気づいた。
一様に黒っぽい地味な色合いの服装で、所在なさげに壁ぎわや柱のそばに立っている。
青年や、壮年の男性、老婆や少女もいた。
そしてその周りの空間は色彩を失って見えた。
「……?」
ふしぎに思いながらも通り過ぎる。
エレベーターを待つひとたちに混じっていると、乗り場ボタンのすぐそばにも、新聞を広げている年配の男がいた。
エレベーターを乗降する人の邪魔では、と思ってあたりをみ回しても、だれも気にとめるそぶりがない。
じっと見ていると、唐突にその男が新聞をずらしてわたしを見た。
ぞっとした。
ほら穴のような真っ暗な目だったのだ。
そのほら穴は、冷たい風が吹く、黄泉への道に見えた。
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