7人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
いろんな彼を観たことがある。
高校生だったり、やさぐれた青年だったり、甘ったれのお金持ちだったり、父親だったり、ジェイソン・ボーンみたいな破格だったり、人間じゃなかったり。
その中の、だれとも違う彼を、初めて見た。
だれとも違うのに、そのだれもであるような。
「俳優って不思議なひとたちなのね」
「はあ?」
心底めんどくさそうな表情だった。あ、そういう顔はあんまり記憶にないかも。
「ねえ、なんであたしが見えるの」
「そういう家系だから。おれにできることはなにもない。とっとと成仏するんだな」
そう言い捨てて、ふたたび布団に潜ってしまった。
髪の毛だけが、ふわふわっと枕にこぼれてる。
なぜか笑いそうになった。
うん、幸せだ。
たぶんわたしは今、世界で一番、幸せだわ。
最初のコメントを投稿しよう!