マネキンと同居する男

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マネキンと同居する男

 幸田孝史がいつものようにコンビニ弁当を買って帰宅した頃、時刻は既に夜の十一時を回っていた。二階建て、全六戸の木造アパートは築年数が四〇年を超え、所々塗装が剥がれ落ち、鉄製の階段も長年風に晒されて朽ちかけている。  幸田の部屋は二階の二〇一号室、隣の二〇二号室には狭い四畳半の部屋に若い男女と三人も子どもが暮らしている。男女は結婚しているかどうかは分からないが、夜中にもかかわらず喧嘩する声や、子どもの泣き声が引き金になって、二〇三号室の神経質な老人と時折諍いがおき、廊下で男と言い争っている声が聞こえてくる。  建ってから一度も改修されていないと思われるアパートは、立地が悪く、日中でも光があまり入ってこないため、全体的に陰気くさい。二階でさえ湿っぽく殆ど光が入ってこないからか、それとも二階の部屋の住人がうるさいからか、今現在、一階には誰も住んでおらず、二〇二号室が静かな時は本当に朽ちた廃墟のようになる。  幸田が部屋の電気を付けると、そこには剥がれかけた壁紙も見えない位、部屋中を覆い尽くすように奇妙な同居人――マネキン人形が立っていた。 「おかえりなさい」     
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