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序章
満天の星が夜空に輝いている。
しかしそれは、霞んでいてはっきりと見えない。
春の霞がかかっているせいではなかった。
まだ幹の細い幼木の根元に、仰向けで倒れている青年がいる。
先ほどまで微かに見えていた星空は、彼の目にはもう映らなくなっていた。星などどうでもいい。ただ、見上げた先の黒く細い影を必死で掴もうとしているだけだった。
「…間違って……いたのか…な…」
青年は幼木に問いかける。
しかし、花をつけない幼木は何も返す事が出来ない。分かっていた。分かっていたが、そうではないと言って欲しかった。
幼木は何も語れず、悲しそうに青年を見下ろすしかなかった。
「そう…悲しむな。これからおまえと千年…一緒にいよう。おまえの枝を揺らす風になって…ずっと…。」
「幼の桜…揺の桜………わた…し…の…」
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