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卒業式
「ぃっ…てき……まぁー…す…」
全く気の感じられない挨拶だが、一応ちゃんとする。
いついかなる時も挨拶だけはきっちりすること。ばあちゃんとの約束だ。
それが愛される人間になることへの第一歩だと、何度も何度も言い聞かされていた。
常にそれを意識している訳ではないが、16歳の周平の心にはしっかりと根付いている。
だが、やっぱり行きたくない。
これは今朝の夢見が悪かったせいもある。小さい頃から何度も見ている、訳のわからないあの夢。
霞んで見えない星空と、掴みたいのに掴めない黒く細い影。
あの夢を見た朝は、悲しくて、やるせない気持ちのまま目覚める。
(最悪だ。はぁ…卒業式、マジ憂鬱…)
起きてからものの数分で身支度を整え、靴の踵を踏んづけて履き、玄関のドアノブに手をかけた時だった。
「周ちゃん、お弁当忘れてるよ!」
台所から大きな弁当包みを持って、ばあちゃんがぽてぽてと走ってきた。
その姿を見て、最近また太ったよなぁと思う。まぁ、痩せていくより全然いいけど。
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