舟を目指して

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舟を目指して

 体が、動かなかった。  動いてよ……動いてよ! ――と胸中(げき)したところで、鉛のように重たい足は、びくともしなかった。 「ううう……うう……はぁぁぁ」  私は、低く唸り、長い溜息を吐いた。  野生の動物か、はたまた野に放たれし魔性なのか……どうかはさておいて、どちらかといえば、多分、おそらくは邪悪側(ダークサイド)雰囲気(オーラ)を纏いながら、ダイニングテーブルに突っ伏していた。  疲れた。ほんっと、疲れた。ベリータイヤードである。エギゾーステッドである。バーンナウトである。  私は今日、何度お茶を汲んだだろう。その間、何歩オフィスと給湯室を行き来しただろう。そして、何度コピーを取っただろう。コピー機の前で、何度、聞きたくもない上司の子供の話を聞かされただろう。何度、何度――  上げたらキリがない上に、更に体にかかる重力が増したような気がする。  私は、腕を、ギギ、ギギギ、と動かして、卓上のリモコンを手にとった。  スイッチを入れると、戸板のような薄っぺらいテレビが発光する。そこから機械音声のように不自然な笑い声がリビングに響いた。     
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