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「ごめんね、遅くなって。志穂ったら、グズグズで――」
店の大きな門をくぐると、床にはたくさんのベージュ色をした石畳が敷かれていた。
「綺麗でしょ。イギリスのヨークシャー州でとれる砂岩で、とっても温かみを感じる
柔らかな風合いで英国でも人気が高いのよ。」
敷き詰められた乱石の両側には、やはりたくさんの種類のハーブが植え込まれている。
先程感じた薫りは、ここから風で運ばれてきたのだ。
ハーブを目で追いながらしばらく進み石畳を抜けると、
木彫りの大きな扉が現れ、その前で志穂と夏美は立ち尽くしていた。
慌てて連れ出された普段着の志穂も、夏美と同じように場にそぐわない洋服に
戸惑いを隠せずにいたのだ。
「大丈夫よ安心して。今日は貸し切りだから」
そう告げる涼子の言葉に安心半分、主婦目線での新たな問題、
そう、支払いの不安を抱きながら二人は店内に入った。
扉を抜けるとアンティークな家具や絵画が並べられ、
中央には店の看板らしき文字が描かれていた。
「 Rejina 」
「レジーナ?」
「ええ。イタリア語で嬢王、王妃の意味を持つのよ
今日は女だけで、素敵な時間を過ごしましょうね」
あまりにも私生活と異なる次元の違う世界観に夢見心地のまま、
前菜、パスタ、メインの魚料理を頂いたと思ったら、
まさかのお肉料理が運ばれ現実を忘れてしまうほどに、
至福の時を味わっていた。
食事を終えたあと、涼子の提案でデザートとコーヒーは
中庭で頂く事となった。
「ここでなら、誰にも気兼ねなく話ができるわね」
それは、志穂の心の傷を解放させるため用意された特別な時間と空間だった――。
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