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香ばしい薫りと深い苦みが喉元を通るとき、志穂が話始めた。
「主人ね。ずっと優しい人で、何一つ不満なんてなかった。
今回女性の問題で感じたんだ。
男の人って、やっぱり性欲とかいくつになってもあるんだね。
もっと寄り添っておけばよかった、
夜の生活も努力しなきゃいけなかったんだなぁ」
志穂の話によると、家庭の事情で急ぎの連絡を取る必要があり携帯に
連絡を入れたが繋がらず、やむなく職場に連絡を入れたらしい。
しかし、ご主人は既に退社済みであり、しかもここ数日は17時前には会社を
出ており、30分程の自宅の距離に対し帰宅はいつも21時を過ぎていた。
理由を問いただしたが、曖昧な返答しかないらしい。
「でも、それってただの買い物とか趣味とかじゃないの?
それに、もしかしたら何かのサプライズとか用意してたりして」
志穂の話では決定的な証拠がないため、夏美はそう諭したが
想定外の言葉に返す言葉が出なかった。
「探偵……」
「えっ」
「探偵雇ったんだ。誰にも相談できなくて、苦しくて仕方なかった。
そしたらね。主人、いつも18時にはちゃんとマンションに戻ってた。
でも――
エントランスを入った後の3時間、自宅には帰ってこない」
「それって、同じマンション内で浮気……」
「マンションってさ、付き合いなんて殆どないから、
どんな人が住んでるかわからないし、探偵の方もこれ以上の調査は
私にも迷惑かかるし、周囲にも怪しまれるから困難だって――」
零れ落ちる涙を拭いながらも、誰にも話せなかった心のわだかまりを
一気に吐き出した様子の志穂の表情は、心なしか晴れやかにも感じた。
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