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「朝倉さま」
「どうした?マダムサチヨ様がお越しです」
「えっ、マダムが……」
朝倉は慌てた様子で、応接室へと駆け寄った。
フランスの家具や絵画で飾られた室内のソファーには、優雅にハーブティーを口にする
マダムサチヨがいた。
「あぁ、やはり朝はこのペパーミントティがよろしいわね。
どのハーブよりもこのメントールが利いた清涼感が目覚めには最適なの。」
久々に会う朝倉に対し、マダムサチヨは相変わらずハーブの話から始め出す。
もう80歳は過ぎるであろう夫人だが、肌ツヤに髪の色、表情に現れる小じわさえ年老いた雰囲気は一切感じさせない程、魅力的で女性的な雰囲気を醸し出していた。
「ご連絡頂ければお迎えにあがりましたのに」
「忙しいあなたの手を煩わすわけにはいかないは、それに、大事な孫娘が空港まで迎えの車を寄こしてくれていたから大丈夫よ」
運転手には来日したこと、お迎えに上がったことは口外しないよう伝えていた様子で、
流石の朝倉の身にも連絡が入っていなかった。
「これは参りましたな。日本へはいつ?」
「日曜の夜よ」
「日曜と言いますと、たしか凄い大雨の悪天候では」
「そう、酷い雨だったわね。でも、その雨のお陰で孫娘に少し変化があったようなの」
「変化?」
マダムサチヨは、その件について朝倉を訪ねて来た様子だったが、すぐ本題には入らず仕事の進捗を確認しだした。
「その前に、涼子様の件は順調なの」
「はい。昨日月曜日にご来店頂き今日の手配も全て整っております。
先日は来日前にご指定頂いておりました眉目秀麗の若い才能のある画家を、
うちのウエイターと称して対面させております。
本日以降、医者、検事、ピアニスト、文学作家と順次ご指示に基づき対応いたします」
「大切なお客様なの、しっかり頼みますね」
「涼子様の変化と言えば、お二人様のご友人を追加申請されており、
何でも学生時代の恩があるとかでして――」
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