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「常習みたいね」
後部座席に座る一人の女性が問いかけた。
「ええ。お見苦しい事態大変申し訳ございません。
噂ではこの界隈で、雨の日に現れる様でして注意はしていたのですが……」
運転手の話によると、当たり屋より安全な濡れ屋と言われるものらしく、
雨の日を狙い住宅街の角から突然現れ、クリーニング代を請求する輩だった。
主に立場の弱い女性ドライバーの車をターゲットにしてるらしい。
「人間のクズですよ。きっと天罰が起こりますよ。」
そう放つ言葉を聞こえたのかは定かではないが、女性は静かに頷いていた。
普段はこんな住宅街は通行しないのだが、急ぎで空港に向かうため仕方なく
運転手は抜け道を選択していた。
「この抜け道は私も初めてでして、時間を無駄にしました。
申し訳ございません。」
運転手はそう告げ、先を急ごうとアクセルを踏み込もうとした際、
再び車は路肩の水を跳ね飛ばし、その水を見事に全身被った歩道を歩く男と
後部座席の女性は目があった。
「止めて!」
女性の言葉に運転手は速やかに従い、車を停止させ歩道の男の傍まで
車を後退させた。
「複数犯か」
小さく舌打ちする運転手はこれ以上時間を無駄にできないと、
再び札束を手にし、窓の隙間から差し出した。
車に近づく歩道を歩くびしょ濡れの男がとった行動は意外なものだった。
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