42人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
ターゲット
「カッチ カッチ……」
降りしきる大粒の雨の中、一台の黒い高級車が住宅街を走り抜ける。
単調に繰り返しながら左右に動くワイパーが役に立たない程、フロントガラスには
滝の様に水が流れ落ち視界を遮る。
「バシャ―ン!」
路肩に溜まる水が大きくはじけた時、通りの角から一人の男の姿が見えた。
両手に白い手袋をはめた運転手は車を停車させ、バックミラーを確認すると
先程の男が何かを叫びながら、運転席へと近づき傘で窓を叩いた。
「コノヤロー!びしょ濡れじゃないか!どうすんだよ」
傘など役に立たない大雨の中、運転手に対し威嚇してきた男は金を出せと口にはしないものの、要求を促す態度をとっていた。
運転手は徐に窓を少し開けると、
「申し訳ございません。少し急いでおりまして――
少しですがクリーニング代です」
そう語り、20枚はあろうか一万円札を窓から差し出した。
「おお。見逃してやるよ」
男は勝ち誇った様子で、札束を手にしようとした際、
札束は宙を舞い一瞬にして色を濃くし、地面へと散らばりはり付いててゆく。
男が受け取る前に運転手は手を離した様子だった。
再び走り出す車のミラーには、地面をはう様に万札を拾い集める男の姿が映っている。
最初のコメントを投稿しよう!