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『次は、×××。×××です。○○線・△△線はお乗換えです。お降りのお客様はお忘れ物のないよう御支度ください』
電車が駅に近づいたことを知らせるアナウンスが流れると手はぴたりと撫でるのを止め、チッという舌打ちと共に開けた時同様そろりそろりとジッパーを上げていった。
ほっとするようなちょっと残念なようなそんな気持ち。
電車のドアが開くと人の波が堰を切ったように車外へと流れていく。
俺は流れに飲まれないようにドアと座席の間の隙間に体を滑り込ませると火照りを沈めるために大きく息を吐き出した。
学校の最寄り駅まではまだあと二駅ある。それまでにはこの熱もひいてくれるだろう。
「降りるぞ」
「えっ!? ってちょっと待って……っ」
突然ぐいっと肘をつかまれ抗う暇もなくホームに引き摺り降ろされてしまった。
同じ制服に身を包んだ学生達がこんなところで降りようとしている俺たちを訝しげに見ている。
腕を強引に引かれ、乗り継ぎ客でごった返す階段を駆け上る。カバンで前をさりげなく隠すようにしているので足がもつれそうだ。ついて行くのに必死で、気がつくと男子トイレの個室に押し込まれていた。
外の喧騒とは裏腹に中は人の気配もなくしんとしている。
背後でカチャリと鍵をかける音。
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