悪戯な指先

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 母親もついに見放したのかどたばたと朝の身支度を整える俺を呆れ顔で一瞥するだけで口喧しく文句を言わなくなってしまった。うるさく「起きろ」と連呼されるのも腹が立つが、こうやって放置されるのもそれはそれでムカつくので子供なんて勝手なものだと我ながら思ったりする。  兎にも角にも、今日もなんとか反省文は免れた。  全力疾走したお陰で乱れていた鼓動と呼吸も漸く通常業務に戻った。あとは二十分たらずこの空間に身を置いていればいい。電車を降りてから学校まではまた猛ダッシュなので今のうちに体力の回復だ。  こつんとガラス窓に額をくっつけるとひんやりとした感触が心地よくて少し肩の力が抜ける。  ぼんやりと窓の外の景色を眺めていると程なくして電車はカーブにさしかかった。それに合わせて中にいる乗客達もゆっくりと傾き、背中に今まで以上に圧迫を感じる。  わずかに車内の空気が動き、少し癖のあるフゼア系のコロンの甘い香りが鼻腔をくすぐった。何度も嗅いですっかり憶えてしまった香り。  また、アイツがいる―――!  警戒心を抱くのとほぼ同時に腰の辺りにさわりと意志をもった掌が触れるのを感じる。  やっぱりまた来た!  反射的に、ざわりと首筋の辺りの皮膚が粟立つ。  俺は後ろを振り返ることもできず、ただ俯いた。すでに抵抗することは諦めている。     
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