序章

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 遠くで青葉の笛の鳴る音が聞こえる。  青葉の笛というのは、かつて信州の戸隠山(とがくしやま)に住んでいた心優しい鬼、官那羅(かんなら)が持っていた笛のことだ。官那羅の死後、笛はたくさんの所有者の元を転々とし、やがてあやかしまつりの主が自らのものとした。  以後、青葉の笛は、お祭り開催の合図として使われている。  私にそう教えてくれたのは、エルという変わった名前の青年だ。  三年に一度しか会えないし、信頼している夫に申し訳ないとも思うので、彼とは数時間話す程度だ。それでも、その時間は私の楽しみの一つだ。  今年もあやかしまつりの日が訪れた。  また、彼に会いに行こう。
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