十一の夏、初めてのおまつり

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 影が長くなっている。  私は車通りの少ない道を一人で歩いた。  何度経験しても、何歳になっても、帰り道には寂しさを感じた。夕日がその感情を強くさせるのかもしれない。涙ぐみそうになった。  早く家に着きたい。自然と早足になる。  アパートに戻って、部屋の扉を開けた。中は薄暗かった。 「ただいま」  呼びかけてみたが、反応はなかった。  駐車場を見ると、車は止まったままだ。両親は中にいるはずなのだが……。  私は靴を雑に脱いだ。昼間の蒸し暑い空気が充満していた。 「お父さん? お母さん?」  リビングに入って、すぐに電気をつけた。  二人はいた。  父はソファーに仰向けになっていた。  母はテーブルに突っ伏していた。  二人とも寝ている――とは思わなかった。  父の白いシャツ、その胸が赤く染まっていた。  母の座っているイスの足元に、赤い液体が溜まっている。  時計が鐘を打った。  六つ、鳴り響く。  音が消えると、部屋は再び静寂に包まれた。  あまりにも静かだった。  心臓の鼓動は、一つだけだった。  私は叫ばなかった。口が開かなかった。  ただ、ゼンマイが切れた人形のように、ゆっくりと、床に崩れ落ちた。
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