167人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
それから、私は再び眠った。
マスコミが取材を求めてきたらしいが、汐見が追い払ったようだった。
三日ほど、彼女は私の傍についていてくれた。
その汐見が事件のことについて話し始めたのは、八月二十日のことだった。体はどこも悪くなかったのだが、私はずっと入院させられていた。
「ねえ千沙ちゃん、思い出すのはつらいと思う。だけど、犯人を捕まえるために協力してほしいの。私とお話しできる?」
あらためて言われて、本当に両親が殺されたのだということを実感させられた。
犯人を捕まえる。
絶対に捕まえてほしかった。私は「できる」と答えた。
「まず、貴女は何時頃帰ってきたの?」
すぐに記憶を掘り返す。あの時、リビングの時計が鳴っていた。
「六時、だったと思う……」
汐見は手帳に書き込んだ。
「家に帰ってきた時、なにか変わったことはあった? 例えば、見知らぬ人とすれ違ったとか」
変わったことと言われても、車が置いてあるのに家の明かりがついていなかったことくらいだ。それは両親がもう死んでいたせいだから、今さら言うほどのことでもない。
……いや、あった。
「ネックレスがなくなってた」
「ネックレス? 誰のネックレスかしら」
「私の。お母さんがあやかしまつりで買ってくれたの。テーブルの上にあったんだけど、帰ってきた時にはなかった」
汐見の眼が細くなった。
「あやかしまつりって?」
「あのね、不思議な場所で開かれてるお祭りなの。そこの屋台でお母さんがネックレスをプレゼントしてくれたんだ」
「不思議な場所っていうのは、具体的にどの辺り?」
「川の近くで篝火が焚かれてるの。その篝火をぐるぐる回ると、お祭りに入れるんだ」
汐見は困惑した顔になった。
「話を変えましょう。あの日、お父さん達は誰かと会うって言っていた?」
「ううん。なにも言ってなかった」
「そう……」
私は、言葉を口にするたびに、自分の体が重くなっていくことに気づいた。
あやかしまつりの存在を、汐見が信じてくれない。
事件が起きたのはあやかしまつりから帰ってきたすぐ翌日だった。これを偶然で片づけてしまってもいいのか。
私が出かけたあと、両親は何者かに殺されたのだ。
もしも私が清一君と遊んでいなかったら、私も一緒に殺されていたのかもしれない。そう考えると、背筋が薄ら寒くなった。
死、というものは知っていた。
この世からいなくなってしまうということだ。
死んだらどうなるのか。
ただ消えていくだけなのか。それとも、漫画やアニメのように、違う形になって新しい生を受けるのか。
小学生ながらに考えたことがあったが、答えを出すことはできなかった。結局、死んでみなければわからない、という幼い結論に至っただけだ。
最初のコメントを投稿しよう!