激変する私の世界

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 それから、私は再び眠った。  マスコミが取材を求めてきたらしいが、汐見が追い払ったようだった。  三日ほど、彼女は私の傍についていてくれた。  その汐見が事件のことについて話し始めたのは、八月二十日のことだった。体はどこも悪くなかったのだが、私はずっと入院させられていた。 「ねえ千沙ちゃん、思い出すのはつらいと思う。だけど、犯人を捕まえるために協力してほしいの。私とお話しできる?」  あらためて言われて、本当に両親が殺されたのだということを実感させられた。  犯人を捕まえる。  絶対に捕まえてほしかった。私は「できる」と答えた。 「まず、貴女は何時頃帰ってきたの?」  すぐに記憶を掘り返す。あの時、リビングの時計が鳴っていた。 「六時、だったと思う……」  汐見は手帳に書き込んだ。 「家に帰ってきた時、なにか変わったことはあった? 例えば、見知らぬ人とすれ違ったとか」  変わったことと言われても、車が置いてあるのに家の明かりがついていなかったことくらいだ。それは両親がもう死んでいたせいだから、今さら言うほどのことでもない。  ……いや、あった。 「ネックレスがなくなってた」 「ネックレス? 誰のネックレスかしら」 「私の。お母さんがあやかしまつりで買ってくれたの。テーブルの上にあったんだけど、帰ってきた時にはなかった」  汐見の眼が細くなった。 「あやかしまつりって?」 「あのね、不思議な場所で開かれてるお祭りなの。そこの屋台でお母さんがネックレスをプレゼントしてくれたんだ」 「不思議な場所っていうのは、具体的にどの辺り?」 「川の近くで篝火が焚かれてるの。その篝火をぐるぐる回ると、お祭りに入れるんだ」  汐見は困惑した顔になった。 「話を変えましょう。あの日、お父さん達は誰かと会うって言っていた?」 「ううん。なにも言ってなかった」 「そう……」  私は、言葉を口にするたびに、自分の体が重くなっていくことに気づいた。  あやかしまつりの存在を、汐見が信じてくれない。  事件が起きたのはあやかしまつりから帰ってきたすぐ翌日だった。これを偶然で片づけてしまってもいいのか。  私が出かけたあと、両親は何者かに殺されたのだ。  もしも私が清一君と遊んでいなかったら、私も一緒に殺されていたのかもしれない。そう考えると、背筋が薄ら寒くなった。  死、というものは知っていた。  この世からいなくなってしまうということだ。  死んだらどうなるのか。  ただ消えていくだけなのか。それとも、漫画やアニメのように、違う形になって新しい生を受けるのか。  小学生ながらに考えたことがあったが、答えを出すことはできなかった。結局、死んでみなければわからない、という幼い結論に至っただけだ。
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