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「まあ、あたしも五郎さんから聞いたことだから」
私は食パンを食べ終え、身を乗り出した。
「犯人はわかったんですか?」
「まだだと思うよ」
十和子さんはコップに入った青い液体を飲み干した。酒だろうか。
「なんだったかなあ、ちょっと変な感じなんだって。っていうか聞いても大丈夫なの?」
「……大丈夫です」
「そう。実はね、二人とも薬で眠らされてたんだって」
「薬?」
「睡眠薬らしいよ。それで眠ってる間にグサッって」
「だから、犯人はお父さんとお母さんの知り合いなんですか?」
両親に睡眠薬を飲ませる。確かに顔見知りでなければ難しい行動だ。見ず知らずの他人がやってきて飲み物を勧めたとしても、普通は飲まない。
「そういうのも警察が考えてるって。まあ金目的だろうみたいな。財布とか盗られてたみたいだし」
私はうつむいた。目頭が熱を帯びていた。
十和子さんはしゃべりすぎに気づいたのか、小さくため息をついた。
「ごめんね。ついつい」
私は首を横に振る。聞かせてほしいと頼んだのは私なのだ。
「あたし達なんかじゃ代わりにはならないかもしれないけどさ、頼っていいからね。寂しかったらそう言ってよ」
十和子さんは声のトーンを変え、優しく言ってくれる。
「どうして、優しくしてくれるんですか」
「まあ、五郎さんが千沙ちゃんのお父さんに頼まれたっていうのが第一だよね。でもあたしは……なんだろな、あたしも寂しいのかもしれないな」
「十和子さんも?」
「あたしと五郎さん、子供いないじゃん? いやまあ、今からでも充分作れるんだけど、五郎さんすごく忙しいからね。なんだかんだでズルズル引っ張ってきちゃった。だから家に子供がいるってすごく嬉しいのかな。五郎さん、昨日はみんなに無理言って仕事休んだんだ。千沙ちゃんのところには自分で行くって」
「そう……なんですか」
私を養子にするという話も、聞き間違いではないようだ。
ただ、五郎さんと十和子さんの思いは確かに感じた。
私はまだ、這い上がることができる。
「よし、千沙ちゃんこっちおいで」
手招きされて、私は十和子さんの横に移動した。ほんのり顔を赤くした十和子さんがビデオを手にしていた。十和子さんの後ろに何本か積み重ねられている。
「仲良くなった印に、一緒にこれ見ようよ」
十和子さんが持っていたのは『呪怨』だった。
――間違ってる気がします。
つっこみたくなったのを、私はこらえた。
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