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長野駅の善光寺口に到着した。
ロータリーにはバスが何台か停車していて、観光客らしき人の姿が多い。
まだ誰も来ていない。
私は携帯を取り出して清一君にかけた。電話に出るなり彼は言った。
「わりい、下園のやつがが寝坊しやがったせいで電車に乗るの遅れたんだよ。もう着いてんの?」
「うん、着いてるよ」
「もうすぐ電車来るからその辺で時間潰しててくれ。長野駅ついたらまた連絡するから」
了解、と答えて携帯をスカートのポケットにしまう。
「遅れてるんですか?」
「そうみたい。とりあえず本屋に行ってよう」
私達は近くにある大型書店を目指して歩いた。あまりにも暑くて、外で待っている気にならなかった。
向こうからスラッとした女性が歩いてくる。
その顔に見覚えがあった。
「あれ……汐見さん?」
相手がびっくりしたように私を見る。切れ長の目と視線がぶつかる。
「……貴女、谷村千沙さん?」
「やっぱり汐見さんですよね?」
「そうよ。こんなところで会うなんてね」
久々の再会だった。
両親の事件で、彼女の聴取を受けたことを思い出した。あれから何度か電話でやりとりをしたが、直接会うのは久しぶりだ。今日は薄手のブラウスとロングスカートという出で立ち。私服を見るのは初めてのことだった。
「谷村さん、その後はどう?」
「谷村じゃなくなりました。今は森崎千沙です」
「あ、そういえば森崎五郎さんの家族になったのよね」
「はい。汐見さんには感謝しています」
ボロボロになっていた私の傍に、汐見はずっとついてくれていた。彼女が間に入ってくれたからこそ、私は初対面の五郎さんを信用することができたのだ。
「今日はお休みですか?」
「ええ。貴女は夏休みでしょう? うらやましいわ」
「でも宿題が山のように出てるんですよ」
お互いに笑った。少し離れた場所で花織が見ている。
「汐見さん」
私は声を低くして言う。
変化を感じ取ったのか、汐見の目つきが鋭くなった。
「犯人はまだ、捕まってないんですよね」
彼女は答えず、
「ここでは邪魔になるから、あっちのカフェに行きましょう」
と言って歩き出した。
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