十四の夏、二度目のお祭り

2/28
167人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
 長野駅の善光寺口に到着した。  ロータリーにはバスが何台か停車していて、観光客らしき人の姿が多い。  まだ誰も来ていない。  私は携帯を取り出して清一君にかけた。電話に出るなり彼は言った。 「わりい、下園のやつがが寝坊しやがったせいで電車に乗るの遅れたんだよ。もう着いてんの?」 「うん、着いてるよ」 「もうすぐ電車来るからその辺で時間潰しててくれ。長野駅ついたらまた連絡するから」  了解、と答えて携帯をスカートのポケットにしまう。 「遅れてるんですか?」 「そうみたい。とりあえず本屋に行ってよう」  私達は近くにある大型書店を目指して歩いた。あまりにも暑くて、外で待っている気にならなかった。  向こうからスラッとした女性が歩いてくる。  その顔に見覚えがあった。 「あれ……汐見さん?」  相手がびっくりしたように私を見る。切れ長の目と視線がぶつかる。 「……貴女、谷村千沙さん?」 「やっぱり汐見さんですよね?」 「そうよ。こんなところで会うなんてね」  久々の再会だった。  両親の事件で、彼女の聴取を受けたことを思い出した。あれから何度か電話でやりとりをしたが、直接会うのは久しぶりだ。今日は薄手のブラウスとロングスカートという出で立ち。私服を見るのは初めてのことだった。 「谷村さん、その後はどう?」 「谷村じゃなくなりました。今は森崎千沙です」 「あ、そういえば森崎五郎さんの家族になったのよね」 「はい。汐見さんには感謝しています」  ボロボロになっていた私の傍に、汐見はずっとついてくれていた。彼女が間に入ってくれたからこそ、私は初対面の五郎さんを信用することができたのだ。 「今日はお休みですか?」 「ええ。貴女は夏休みでしょう? うらやましいわ」 「でも宿題が山のように出てるんですよ」  お互いに笑った。少し離れた場所で花織が見ている。 「汐見さん」  私は声を低くして言う。  変化を感じ取ったのか、汐見の目つきが鋭くなった。 「犯人はまだ、捕まってないんですよね」  彼女は答えず、 「ここでは邪魔になるから、あっちのカフェに行きましょう」  と言って歩き出した。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!