十四の夏、二度目のお祭り

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「あれ? 千沙ちゃんどっか行くの?」  風呂から上がって素早く着替え、玄関に向かおうとしたところで十和子さんに見つかった。 「あ、ちょっと、友達の家に……」  曖昧に答えると、 「もう真っ暗だよ。送ってってあげようか?」  十和子さんが提案してくれた。  送ってもらうとなにか支障は出るだろうか。……ない、はずだ。 「いいんですか」 「ちょうどあたしも買い物行こうと思ってたし。裏で待ってて」  思わぬ助け船だ。片道だけでもありがたい。  裏の駐車場に置かれている十和子さんの車に乗り込む。花織も出てきた。 「千沙さん、気をつけてくださいね」 「うん、ちょっと行ってくるね」  花織に見送られて、車は発進した。 「どこで降ろせばいい?」  私は犀川沿いの、なるべく建物の多い場所を言った。ひとけのない場所を選ぶと疑われる。  数分、車内は静かだった。 「そういえばさあ、誰から聞いたんだっけ……。忘れちゃったけど、千沙ちゃんあやかしまつりって知ってる?」  一瞬、呼吸を忘れた。ぎこちない動きで、私は首を十和子さんに向ける。 「なん、ですか?」 「いやあ、友達からそんな感じの怖い話きかされたことがあって、今ふと思い出したんだよね。夏の河原で開かれるとかなんとか言ってたから。って、千沙ちゃんは知らないか」 「はい……、知らないです……」  精一杯知らないふりをした。 「でも夢があるよね、そういうのって。あたしオカルト系の話って大好きだから」 「家にホラー映画もたくさんありますもんね」 「時々ああいうの見ないと刺激が足りなくてね」 「私、初めて森崎家に来たとき見た『呪怨』がいまだにトラウマなんですけど」  十和子さんが大笑いした。  彼女のオカルト談義を聞かされているうちに目的地に到着した。車が止まる。私は下りて十和子さんにお礼を言った。 「電話してくれれば迎えに来るよ。どうする?」 「えっと、何時になるかわからないのでまた連絡します」 「はいよ。じゃあ気をつけてね」  十和子さんの車が走り去っていった。  私は川沿いの道路を、イメージの通りに歩き始めた。  ただ頭の中にある地図のままに歩いていけばいい。目的地が見つからないということだけは考えられなかった。  夜は足場が見づらい。石につまづくと危険なので、河原には下りなかった。  左手を川が流れている。ざあざあと音が聞こえてくるが、流れはほとんど見えない。
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