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激変する私の世界
目を覚ました時、弱った蛍光灯の光が見えた。
体を起こすと、ベッドに寝かされていることがわかった。どこかの病室だった。
「大丈夫?」
声の主はベッド脇のイスに座っている、スーツ姿の女性だった。
「あの……」
「私は汐見と言うの。警察の人間です」
私はハッとした。
あの薄暗い光景が蘇ってきたのだ。
夕日の差し込んだ部屋。夕日よりも赤い血。二つの冷たい体。
私は口元を押さえた。急激に吐き気がこみ上げてきた。汐見と名乗った女性刑事が背中をさすってくれる。
「もう少し眠ったほうがいいわ」
「刑事さん……」
「なに?」
「お父さんと、お母さんは……死んじゃったの?」
すぐの返事はなかった。汐見はじっと私の顔を見つめてきた。切れ長の目を、私も見つめ返した。じっと睨み合うように視線を交差させていた。
やがて汐見が、うつむくようにして首を縦に振った時、私は、自分の体から全ての力が抜けていくような感覚を覚えた。
私は泣かなかった。どう泣けばいいのかわからなかった。
――千沙ちゃん、ごめんね。
母の言葉が蘇った。
母があんなことをつぶやいていた理由。
もしかして、自分達がもう死ぬことをわかっていたのだろうか。だから今年になって、毎日のように謝るようになったのか。
そんな、バカな話があるか。
こぼした吐息が震えた。その震えが怒りなのか、悲しみなのか、寂しさなのか、それとも他の感情から来たものなのかはわからなかった。
私はふるえる口元を固く閉じて、感情が爆発しそうになるのを抑えるしかなかった。
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