春の章 眼球コレクター

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 片陰ナツ。本当に、陰をまとうような漆黒の黒髪に、ナツという名前とは正反対の陶器のように白く滑らかな肌をした、人形のような同級生。高校の入学式の初日、 「あなた、春暁ハルくん?ねえ、私たち、よく似てるわね。ハルって呼んでいい?」 そう彼女に話しかけられてから、僕たちのこの関係は三年生の春に至るこの時期まで続いている。周囲のクラスメイト達からはよく交際しているのかと訊かれるが、そういう関係ではない。ただ時々こうして、僕たちの町で起きる妙な事件の話をするだけだ。そう、この町では、よく妙な事件が起きる。 「ねえ、聞いてる?」 「あ、うん」 「それは聞いていなかった時の答え方ね」 「……ごめん」 「最後の被害者の女性、生きているのよ。知ってた?」 「そうなの?だってみんな失血死か窒息死しているじゃないか。ショック死もあったっけ?」 「ええ、でも、最後の被害者だけは生きているの。よほどのショックだったらしくて、証言はあてにならないらしいけど」 「あらかた、失血したと思って捨てたけど実は生きていたってところかな」 「そうなのかしら……?」 珍しく、彼女は思案顔で手元のノートに目を落とした。そして、指先でトントン、とその記事を叩き「気になるのよね」とだけ呟いた。 「何が?」 「わからない。だけど、何かが気になるのよ。漠然と」 「珍しいね、ナツがそんなことを言うのは。いつでも明快な君が」 「あら、女にはどこかに謎と陰が隠されているものよ」 「確かに、君には陰が隠れているけれどね」 「隠れているとは言えないけれどね」 彼女はまた鼻で笑うと、ノートを閉じた。
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