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その帰り、ナツとは校門で別れて僕は本屋へと向かった。ナツから、例の眼球コレクターの特集を組んだ週刊誌が販売されていると聞いたからだった。立ち読みして帰ろう、と思い立ったのだ。帰り道でよく寄る本屋の雑誌コーナーに行くと、確かに眼球コレクターについて特集された週刊誌が何冊か並んでいた。新聞ほど確かな情報はなく、被害者の人数や性別、年齢、死因、遺体の見つかった場所や遺体の傷の詳細はわかったが、ほぼすべての雑誌がオカルトチックに眼球を取り除く行為について不確かな推論を並べ立てるばかりで、最後のあたりはほぼ読み飛ばした。だが、一つだけ面白い推論を立てている雑誌があったのでそれを購入して店を出ようとしたときだった。
「あの……」
か細い女の声。最初、僕が話しかけられているとは思わず、そのまま店を出ようとした。だが、すぐに制服の袖を引っ張られて驚いた。
「あの……」
そこには、僕よりも少し長身の、茶色のセミロングにゆるいパーマをかけた痩せた女が立っていた。その顔に思わず見入ったのは、丸い綺麗な瞳でもなく、また小ぶりでつんと上を向いた可愛らしい鼻でもなく、薄目で上品な唇でもなく。
右目に、眼帯をしていたからだった。
「落としましたよ」
「え?」
「生徒手帳。さっき、レジで」
「あ、ありがとう……ございます」
「季郷高等学校?」
「はい」
「私もあそこの卒業生なんですよ。先輩、ね」
「そう、なんですか」
「ここにはよく来るの?」
「ええ、はい……帰り道なんで」
「そう。私もよく来るの。やっぱり帰り道だったから。今は大学だから全然違う方向なんだけど、なんだかここが一番好きなのよね」
「そうなんですか」
「あ、ごめんなさい。でもなんだか嬉しくて。自分の後輩と話すなんて今までなかったから」「いえ」
「なんだか縁ね。また会えるといいわね」
最初に話しかけた時とは打って変わって、嬉しそうに弾む声でそう言うと彼女は去っていった。なんだか妙な気分だった。
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