春の章 眼球コレクター

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帰宅すると、母親がパートに行く時間ですれ違うところだった。スーパーの深夜シフトで、帰りは10時過ぎになるから夕飯の処理は自分でしておいて、とのことだった。  僕の父は、僕が小学生になるころに事故で亡くなった。以来、僕は鍵っ子と俗称される子供だった。ほとんどは隣家の田中家で世話になり、母が帰宅すると隣家から引き取られて自宅に帰る、という生活スタイル。高学年になるとそれもほとんどなくなっていったが、たまに夕飯食べにいらっしゃいよ、と誘われて深夜までいることもあった。そしてそれは今でも続いている。この日は、ちょうど僕が夕飯を食べ始めようというときに田中のおばちゃんと呼んでいる隣人が「かぼちゃの煮つけときんぴらごぼう、作りすぎちゃったから食べて」と持ってきた。食器は母が前にやはりおすそ分けを持って行った時の皿らしく、返さなくていいやつだから、と言い残して去っていった。  一人で夕飯を済ませ、自室に入って先ほど買った雑誌を広げ、パソコンの電源を入れる。ネットで眼球コレクターについての情報を探す。ナツと推測したような同じような情報ばかりで、特にめぼしいものはなかった。 「犯人は女性……自身も何らかの事件の被害者、か?」 雑誌の一部の記事だ。新興宗教の何らかの儀式の犠牲者だとか、ただの殺人マニアだとか、そういった推論が多い中、一番僕の推測に近い記事だったのだ。根拠として、被害者に女性が多いこと、失血死の被害者には長時間拘束し、失血死を目的としたらしい痕跡が残っていたこと、その失血死は男性被害者に限られていること、女性の被害者には窒息死が多いことなどが挙げられていた。力の強い、そして首が太い男性を窒息死させるにはなかなかの力がいるだろう。それならば、拘束したまま目玉をくりぬき、あとは失血死するのを待つだけだ。女性の被害者の窒息死は、失血死を待つ余裕がなかったとも考えられる。目玉をくりぬく理由としては、犯人自身が何らかの事件の被害者で、目に何らかのコンプレックスを抱えているのではないか、という推論だった。  ただ、腑に落ちない。拘束しているのならば、男性でも窒息させることはできるだろう。逆に、女性だって時間を待てば失血死させることも可能だ。事実、女性の被害者でも失血死している者もいる。  何かが、引っかかる。
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