春の章 眼球コレクター

8/17
前へ
/32ページ
次へ
「そういえば、本屋で先輩に会ったって言ったわよね。眼帯の」 「ああ、あの先輩か」 「どんな人?綺麗?」 「眼帯に目がいって、容姿は見てないよ」 「ふうん。普通男なら、女をじっくり見るもんだけど」 「僕を普通の男として定義しているのかい、君は」 「ええ、男として生まれてきている以上は」 「なるほど。それは男として、というよりは、オスとして、という感じだね」 「……ふふ、言われてみると、たしかにそうね」 「君は優しいのか厳しいのか、時々わからなくなるよ」 「私は優しくて厳しいのよ」 論破されて黙り込む僕を見て嬉しそうに微笑むと、ナツは唐突に立ち上がった。 「ね、今から行きましょうよ、その本屋さん」 「え、なんで」 「その先輩に会えるかもしれないじゃない」 「なんで会いたいんだい」 「気になるの。だって、眼帯してたのよ」 「それにしたって……ただのものもらいかもしれないじゃないか」 「ものもらいじゃないかもしれないじゃない」 「昨日の今日だよ。いるかわからないよ」 「いいのよ、行きましょう」 細身で華奢な彼女にしては力強く、半ば引きずるように僕を立たせて教室を出た。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加