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どこをどう走ったのか、結局私は家の近所に舞い戻っていた。
夕焼けが背中をジンジン照らし、汗でぐちゃぐちゃのティシャツが酷く気持ち悪かった。
「あら結奈ちゃん、しょんぼりしちゃってどうしたの」
駄菓子屋の前を通った時、店先で小太りのおばちゃんに呼び止められた。
「別に、なんでもない」
私が呟くと「水あめ食べて行きなさい」と、おばちゃんが優しく微笑む。
店先の長椅子に腰かけると何故か少しホッとして、足をぶらぶらさせながら私は貰った水あめを付属の割りばしに巻いて、ちろちろ舐めた。
おばちゃんは私の隣に大きなお尻をでんとおろし「夕日がきれいねぇ」と独り言のように呟いたけれど、私は一心に水あめを舐め続けた。それを止めてしまったら、心が潰れてしまいそうだったから。
「結奈ちゃんは、いい子よ」
ふいにおばちゃんは、私の頭を撫でて呪文のように言う。
「結奈ちゃんは、いい子」
途端に涙が止まらなくなって、私は水あめを舐めながらしゃくりあげて泣いたのだった。
「おばちゃんはね、結奈ちゃんがちゃんと謝れる子だって知ってるの。思いやりのあるいい子だって知ってるのよ。それに、勇気のある子だって知ってるのよ」
髪を押さえつけるようにして、彼女は私の頭を何度も何度も撫でた。今思えば、何かしら事情を知っていたのかもしれない。
泣くだけ泣いてしまうと、私の意地っ張りな心は次第にほぐれ、代わりに海に対する罪悪感がもくもくと湧いてきた。
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