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夕焼けに染まった玄関の前で、義父と母と海が並んで立っていた。
咄嗟に怒られるのだと固くなった私を、義父は強く抱きしめ「お帰り」と微笑む。
「海のケガは、たいしたことなかったわ」
海の両肩に手を乗せてきゅっと口角を結んだまま母が言った。初めて母に呼び捨てにされた海は、なんだかくすぐったそうに笑っていた。
私は海のブルーの瞳をじっと見つめ、どもりながら一生懸命に伝える。
「海、そ、ソーリー」
何度も何度もおばちゃんに聞いて、やっと覚えたごめんね。魔法の呪文。
その瞬間、額にガーゼのついた海が満開のひまわりのように笑った。不思議なことに、今まで大嫌いだった海の無邪気な笑顔が、とても眩しく映る。
海は必死に何かを思い出しながら、ゆっくり口を開いていく。
「ユー…… ユイナ くるしゅーない」
「え? なんか、日本語変」
プッと吹き出した私につられて、海もククッと笑う。
私と海が初めて心を通わせた瞬間。
そうして時間が流れ出す。
キラキラ輝きながら零れ落ちる、儚い砂時計の粒子みたいに。
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