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緩やかな坂道は、どこまでも続いていく。
土産通りを過ぎるとレンガ道は土をならしただけの小道に代わり、紅葉した木々から落ちた湿っぽい枯葉が小道の両脇を埋め尽くしていた。
地面からニョキッと突き出した木の根やころりとした小石を避けながら慣れない道を進んで行くと、次第に心細さが募っていく。
やっぱり引き返そうか。
でも、せっかく来たんだし。
無言の問答を繰り返しているとプチっと機械音がして、夕方のチャイムが山全体に響き渡った。
咄嗟に母に叱られると思ったあとですぐに首を振る。
もう私は、あの人を恐れる子供じゃないのに。
ごわん、もわんと木々に反響しながら聞こえるメロディがそれだと気づいて、懐かしさで胸がいっぱいになった。
「これは、外国の歌だよ」と、教えてくれたのは海だった。
私たちの街は、どこかの国と姉妹都市で、普通なら童謡が流れる夕方のチャイムが、ちょっぴりハイカラだったのだ。
歌詞は、どんなだったかしら。
私はそのメロディーに耳を澄ませ、小さくハミングする。
『結奈。歌は大声で歌わなきゃ』
チッチッチ、と人差し指を立てて笑う海。いつかの海の笑い声。
かちゃりと、また心の箱が開いて、海との楽しかった思い出が飛び出した。
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