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あれ? と疑問の芽が飛び出したのは、動物園に併設された小さな遊園地で遊んでいた時のことだった。
夕方になり、乗り物チケットがまだ余っているから四人で観覧車に乗ろうということになった。
私と海がいつものように手をつなぎ、私の後ろに母、海の後ろに義父が並んで、二列で観覧車につながる階段を登っていた。
やがて私たちの番になり、乗りたいと思っていた黄色い観覧車がちょうどやってきて「やったぁ!」と興奮する私にスタッフのお兄さんが丁寧な口調で説明する。
「平衡を保つため大人の方とお子様のペアでお座りください」
義父と母が目を合わせるのが見えたけれど、その時はあまり気にならなかった。
並んでいる順から考えて、私とお母さん、海とお義父さんのペアになるなぁと、海の隣に座れなかったことを残念に思いながら「仕方ないね、じゃあ、あたしはお母」と言いかけた私を斜めに横切って、母は海の手を取ったのだった。
「さあ、乗りましょう」
一瞬のできごとだったし、乗り込まなければ観覧車は進んでしまう。
黄色い観覧車に押し込まれた私は、腑に落ちない気持ちと理由のわからないモヤモヤで、涙が出そうになった。
その堪えた涙の正体が、随分と前から時折感じるモヤモヤに通じる何かであることはなんとなくわかっていた。
母は海の肩を抱きながら、にこにこと海に話しかけている。
辛くなって、ところどころ傷のついたプラスチックっぽい材質の窓にほっぺを近づけるようにして、徐々に小さくなっていく動物園の中を見続けた。
義父が私の頭に手を置こうとして止めたのが空気でわかった。
どうして? と、その日初めて、義父に怒りの感情が湧いた。
「ほら、結奈、うちの車が見えるよ。……観覧車降りたらお土産買おうな」
義父は猫なで声でそう言ったのだった。
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