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唐突に現れた観光地特有の土産通りに驚いたけれど、すぐにふふっとおかしくなる。
それは古く萎びた横並びの建物群。
つまりそれらはずっとそこに存在していたのだ。
単に私が見ようとしなかったから、視界に入らなかったにすぎない。
境目の分からない閑散とした土産屋を横目にゆったりした歩みを続けた。
店はどれも小ぢんまりとほの暗く、皆同じような品物を同じように設置していた。ポテトチップスや乾き物の棚、乳製品会社のロゴが付いた分厚い霜だらけのアイスボックス。ちょっとした菓子パン。
全てが古くてきな臭い。今まさに通り過ぎようとしている店先の回転式キーホルダーラックに至っては、白いメッキがパリパリに剥がれて回せば嫌な音を立てそうだった。
初めて訪れる場所。
なのに、いつか、どこかで見た風景に似ている。
どこだろう。
あ、そうか。
子供の頃、大晦日に家族で出かけた温泉街がこんな感じだったかもしれない。でもそこはここと比べ物にならないくらい沢山の人で溢れ活気づいていた。なのにどこか謎めいていて、異世界の入口みたいな背筋がシュンとする怖さを含んでいた。
あの日繋いだ手のひらの感触が蘇り、胸の奥がくすぐったくなる。
同時に鈍い痛みが込み上がる。
別に、もう昔の事じゃない。
私はもうじき、結婚するのだから。
随分と昔に、私は彼との思い出を心の箱に閉じ込めてきつくきつく鍵をかけた。
そうして、静かに、ゆっくりと、その時が来るまでを過ごそうと決めた。
それなのに、何故か……
心が、疼く。
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