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ブツ。
山全体に、こだまするように響いていた夕暮れのチャイムが唐突に切れる。そのせいで私の心も唐突に現実へと戻された。
いつの間にか、茜色の空が深みを増している。ふと立ち止まり、元来た道を振り返ると、土産通りは緩やかな道のうねりに遮られ、初めから存在しなかったかのように跡形もなく消えてしまっていた。
知らぬ間に随分進んでいたようだ。
異様に大きな夕日が私を赤く染め上げていた。
ショルダーバッグからペットボトルを取り出し、張り付いた喉を湿らせながら足元を見つめる。
ヒールの高いブーツを履いているにもかかわらず、不思議と疲労や痛みを感じない。
両足をトントンと踏みしめてみて、まだ歩けそうだと頷く。
夕日の温もった色合いが「行きなさい」と背中を押している気がして、私はまた歩き始めたのだった。
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